メキシコのほぼ中央に位置する標高2000mの山あいに佇む古都・グアナフアト。かつて銀鉱山の富によって栄えたこの街には、往時の繁栄を物語るコロニアル建築が今も残り、街全体が世界文化遺産に登録されている。地上には色とりどりの街並み、地下には迷路のように張り巡らされた道──
グアナフアトを訪れたら、何よりもおすすめなのが、町を歩くこと。曲がりくねった路地の先々に、思いがけない広場や美しい教会、アートに出会える楽しみが待っている。日が暮れると、街は幻想的な光に包まれ、昼とはまた違う、魔法のような表情を見せてくれる。
山に囲まれた狭い土地に、カラフルな建物が密集することから「宝石箱をひっくり返したような街」とも表現されるグアナファト。ピピラの丘からはそんなグアナファトの街を一望。宝石箱といより、レゴブロック。それが夜になると一変。星を散りばめたように煌めく街はまさに宝石箱。
カラフルな建物がひしめき合う歴史地区を縫うように走る路地をさまよい、どこに出るのかワクワクしながら町を散策すれば、お気に入りの小径や素敵なショップにも出会えるかもしれない。そんな偶然の出会いが楽しい。
口づけの小道から徒歩5分ほどのところにあるディエゴ・リベラの生家。ディエゴと双子の兄弟は1886年にこの家で生まれ(カルロスは2歳で亡くなった)、家族がメキシコシティに移住する6歳までここに住んでいた。博物館の1階は当時を再現したもので、19世紀のアンティーク家具が置かれ、上階にはディエゴのスケッチ、イラスト、プロジェクト、絵画など作品が展示されている。「アラメダ公園の日曜の午後の夢」のミニチュア・レプリカも。
グアナフアトの旧市街は、歩いて巡るのにぴったり。なぜなら、車はほとんど地下を走っているから。谷底に広がるこの街は、かつて大雨が降るたびに洪水の被害に見舞われてきた。その対策として、19世紀に街の地下に排水路が築かれた。これも、鉱山の街として栄えたグアナフアトならではの技術の賜物。
現在では、その排水路が車道として再利用され、地上の歴史地区は歩行者天国のような空間に。車を気にせず、安心して街歩きが楽しめるのだ。
地下道には歩道もあるので歩いてみた。空気はこもりがちで照明も少なく、排気ガスが充満していて楽しいものではないが、皇帝ネロの地下帝国やイスタンブールの地下宮殿、浅草駅地下通路など、地下ワンダーランドは嫌いじゃない。しかしやっぱりグアナフアトは、陽の光が降りそそぐカラフルな街並みを歩いてこそ、です。
もともとは穀物倉庫として建てられた「アロンディガ・デ・グラナディータス」。19世紀初頭、メキシコ独立運動の最初の大規模な戦闘がここで繰り広げられた。スペイン軍がこの建物に立てこもり、解放軍との激戦の末、反乱軍が初めて勝利を収めた場所─それはまさに歴史の転換点。
この戦いをきっかけに独立の機運は各地に広がっていくが、やがて建物は再び奪回され、独立運動の首謀者であるイダルゴ神父、アジェンデ、アルダマ、ヒメネスの4人は処刑されてしまう。さらに彼らの首は、反乱の戒めとしてこの建物の四隅に10年間も晒されていたという。
現在、アロンディガはグアナフアト州立博物館として一般公開されており、その壁を彩るのは20世紀メキシコ壁画運動の巨匠、ホセ・チャベス・モラドによる迫力ある壁画。植民地時代の抑圧や独立を求めた民衆の闘いが描かれたその筆致は、今日も力強く訴えかけてくる。イダルゴ神父が蜂起した9月16日は、今でも「メキシコ独立記念日」として国を挙げて祝われている。
グアナファト名物モルカヘテ。熱した石の器に肉やチョリソー、タマネギ、ウチワサボテンパプリカなどの上にチーズがかかっていて、トルティーヤに巻いて食べる。そもそも「モルカヘテ」とはナワトル語の「モルカシトル」に由来し、「石の容器」を意味する。料理名というより器の名前。メキシコの伝統的な調理器具で、火山岩でできた丸くて重い容器のこと。材料を挽いたり混ぜたりするのに使われる。
グアナファトは鉱山の街だけあり、スタミナ満点でボリューミー、ハイカロリー料理が多いので、シェアする くらいがちょうど良かった。🌏