メキシコを旅すると、まず心を奪われるのは色彩だ。乾いた大地に浮かぶ街並み、露店に並ぶ民芸品、祭りで踊る人々──そのすべてが鮮やかな色で彩られている。
街並みを彩る壁の色
コロニアル都市グアナフアトやプエブラを歩けば、パステルから原色まで、家々の壁が絵の具のパレットのように並ぶ。太陽の光を浴びた色彩は、ただの装飾ではなく、人々の暮らしを映す表現そのものだ。日常に喜びをもたらすと同時に、街を訪れる者に「ここは特別な場所だ」と告げているように感じる。
手仕事に宿る色の魔法
オアハカやチアパスの市場に足を踏み入れると、織物や陶器に施された色柄の豊かさに圧倒される。自然の染料から生まれる深い藍や鮮烈な赤、幾何学模様や動物のモチーフは、先住民の知恵と世界観を今に伝えている。
祭りと色のエネルギー
そして祭りの場では、色は一層の生命力を帯びる。死者の日に飾られるマリーゴールドの橙、カーニバルを彩る羽飾りの虹色。色彩は祝祭の高揚感を象徴し、祖先や神々とのつながりをも視覚的に表現している。
色がつなぐ記憶と未来
メキシコのカラフルな風景は、単なる観光的な美しさを超えて、歴史や信仰、暮らしの知恵を映し出す鏡でもある。鮮やかな色とりどりの世界に身を置くと、どこか懐かしく温かい気持ちになり、自分の中の「色彩感覚」まで呼び覚まされていく。
メキシコの色は単なる装飾ではない。人々の祈りや記憶、暮らしの知恵を宿す“言葉”のような存在だ。色に包まれることで、旅人はこの国の文化そのものを体感するのである。