ドイツの街道を行く メルヘン街道600キロ

ラプンツェルの城に宿泊してみた

北ドイツのブレーメンから南へ、グリム童話の舞台をつなぐ全長600キロのメルヘン街道。
前回訪れたハーメルンをあとにして、鉄道とバスを乗り継ぎたどり着いたのは、ラプンツェルの城として知られるトレンデルブルク。
丘の上にそびえる中世の古城ホテルは、まるで物語のページを一歩ずつめくるように、旅人を夢の世界へ誘ってくれる。

ラインハルトの森を見下ろす高台に建つトレンデルブルク城は、1300年頃、カッセルとブレーメンを結ぶ街道を監視するために築かれた要塞が始まり。
のちに15世紀に改修され塔を備えた姿となり、戦乱を経て、1949年に童話の城として生まれ変わった。
今では、宿泊者が中世の雰囲気そのままに「ラプンツェル気分」を味わえる、特別な古城ホテルとして知られている。

古城ホテルらしく、同じ部屋はひとつとない。その中で最も人気のあるのが「ブルク・スイート」。中世の趣をそのままに残しながらも、現代的な快適さをさりげなく織り交ぜた、特別感あふれる空間。広々とした室内には、重厚な木製家具や天蓋付きのベッドが設えられ、まるでプリンセス気分に。アンティークの調度品が、城の歴史と物語性をより深く感じさせてくれる夢のような時間を約束してくれる。

地下のセラーでは、イベントスペースとして「おとぎ話ディナー体験」などが定期的に開かれている。

たとえばハロウィーンの時期に開催される人気イベント「ヘンケルスマール(死刑執行人の食事)」では、蝋燭の灯りに照らされた石造りの空間で、ちょっぴり不気味でユーモラスな晩餐が繰り広げられる。

暗がりの中で響く笑い声とグラスの音。まるで中世の晩餐会に迷い込んだかのようなひと夜の体験は、トレンデルブルクならではの“メルヘンのスパイス”だ。

高さ40メートルの石造りの塔は「ラプンツェル」に登場するあの塔そのもの。内部は展示室として公開され、宿泊者であれば無料で見学できる。狭まく暗い螺旋階段を上っていくと、三つ編みの金色の髪を模したロープが小窓から垂れ下がっている。だけど塔の地下は牢。拷問に使った道具なども展示され、骸骨までぶら下がっている。マジ怖い。

塔の屋上に出れば、360度の大パノラマビュー。中世の面影を残す町並みや、遠くまで続くラインハルトの森を見渡せば、童話の舞台を旅している実感がより一層深まるだろう。

眺望の良いレストランでは、地元産の新鮮な食材を使い、郷土料理からインターナショナルまで、上質なアラカルト料理を提供。甲冑をはじめ様々な調度品に囲まれた空間で味わう食事は、昼夜を問わず、おとぎ話の続きを演じているかのよう。

鴨肉の前菜オレンジソース添え

川向こうに丘へ続く遊歩道を見つけ散策してみる。小径は木々に覆われ、足元にはふかふかの落ち葉。まるでグリム童話の一場面。グリム童話で森は、物語のきっかけや物語が動き出す場所。「ドイツの人々は森を愛する」と言われるが、彼らにとって森は遠い昔から身近にある大切な存在であり、異世界の象徴でもあった。だからこそ、多くの民話が生まれ、語り継がれてきた。それらを纏めたグリム童話の舞台で森が多いのは必然といえる。グリム童話と森とドイツ人は今も昔も切っても切れない関係性なのだ。

九十九折りの遊歩道をさらに上っていくと、一本の古びたセイヨウボダイジュが静かに立っていた。幹の中央にはぽっかりと空いた洞(うろ)。風が吹き抜けると、葉がこすれ合う音が森に響き、まるで木が何かを語りかけてくるよう。静かな自然の中に、一度は読んだことのあるような物語の気配が確かに漂っていた。暗くなったら動き出しそうだ。

大きな杉の木の下にポツンと木の椅子。小人かカエルが座っていたのでしょうか。オオカミかもしれないぞ。

 

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