天使がつくった街 プエブラ

メキシコシティから東へ約120キロ、肥沃な高原地帯に佇むプエブラは、「天使の街」とも呼ばれる美しい都市。かつて天使が教会の建設を手助けしたという伝説が、この地のスピリチュアルな雰囲気をより深めている。

 

17世紀に建てられたバロック様式の教会や、色鮮やかなタイル張りの家々が点在する歴史地区は、その文化的・歴史的価値の高さから世界遺産に登録されている。なかでも圧巻なのが、金の祭壇で知られるサント・ドミンゴ大聖堂。その内部にあるロサリオ礼拝堂は、まさに黄金の聖域。壁から柱、天井に至るまで繊細な金箔レリーフで覆われ、聖母マリア像の冠には宝石が贅沢にあしらわれている。その絢爛たる輝きは、訪れる者の目を奪う。ただの”バロック”だけでは収まらない”ウルトラバロック”だ。

16世紀、スペイン人によって築かれたこの新天地では、キリスト教の布教とともに陶器づくりが盛んになった。現在も町を歩けば、彩り豊かな陶器を扱う店が軒を連ね、職人の手仕事が息づいている。中でも特産のタラベラ焼きは、スペイン発祥の青を基調とした美しいタイルで、教会や民家の壁面を飾り、プエブラ独自の景観を形づくっている。

2019年には、メキシコとスペインの共同で、タラベラ焼きの製造技術がユネスコ無形文化遺産に登録された。街の多くの店でタラベラ焼きが販売されている。本物には陶器の裏に「PUE.MEX」のサインがあると教わった。

 

旧市街に建つ「アンパロ博物館」は、考古学的資料や遺跡をはじめ、プレヒスパニックから植民地時代、さらに近現代に至るまで、メキシコ芸術の豊かなコレクションを収める一大文化拠点だ。
見どころは、単なる発掘物の展示にとどまらず、世界の歴史と並行してメキシコを眺めるというユニークな展示手法。例えば「エジプトでピラミッドが築かれていた頃、アメリカ大陸では…」といった時代横断的な比較を、壁一面の写真や資料で紹介しており、歴史の流れをダイナミックに体感できる。まるで教材のようにわかりやすく、子どもから大人まで夢中にさせる構成だ。

さらに目を奪われるのが、奇妙で愛嬌たっぷりの石偶たち。ユニークな造形の数々は、日本の埴輪にも通じる親しみを感じさせる。ときに思わず笑ってしまうような“ツッコミどころ満載”の作品群は、この博物館ならではの楽しみといえる。

展示物の数は膨大で、一度にすべてを見るのは至難の業。だからこそ、途中で最上階のガラス張りカフェに立ち寄り、コーヒー片手にプエブラの街並みを一望するのがおすすめ。学びと驚きに満ちた知的冒険のひとときが、爽やかな休憩とともにより印象深い体験となるだろう。

プエブラは、メキシコ料理発祥の地として名高い。修道女たちがこの地で、カカオやトウモロコシ、唐辛子などの先住民の食材に、スペインからもたらされたスパイスや乳製品を融合させ、独自の食文化を築き上げた。なかでも代表的なのが、チョコレートと複雑な香辛料を用いた濃厚なソース「モーレ・ポブラーノ」。オアハカのモーレよりも古い歴史をもち、メキシコ料理を象徴する一皿として、今も受け継がれている。

世界文化遺産に登録されたこの美しい街は、食文化として世界で初めてユネスコの無形文化遺産に認定されたメキシコ料理の源流を感じられる、まさに“味の原点”を巡る旅の舞台だ。

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