密林に眠る寺院で祝うお正月

 

アンコール遺跡から西へおよそ150km。
タイとの国境近くに立つ寺院「バンテアイ・チュマール」
以前は、道が悪く地雷が残る地域だったため
一般旅行者が訪れることが難しい寺院でしたが
近年地雷は撤去されシェムリアップからの道路も整備されて
観光客が安心して訪れることができるようになりました。
遺跡は激しく崩壊が進んでいますが
アンコール・ワットやアンコール・トムのように
完全に修復された寺院とは異なる
ありのままの美しさがあります。
そしてここは、カンボジア国民が最も敬愛する
アンコール朝の王ジャヤヴァルマン７世が建立した寺院。
仏教に帰依した王様らしく
回廊にはクメール遺跡では珍しい
「千手観音像」のレリーフが残されています。

早朝5時、シェムリアップのホテルを出発。
道路が整備されたとはいえ目的地までは車で約3時間。
途中にも遺跡にもトイレはないとのこと。
1時間ほど国道を走りあとは赤土の道を
砂埃をあげてひたすら走って行きます。
窓の外を見ていると手におもちゃの銃のようなものを持って
誰かを待っている人がちらほら。
そう、この日はカンボジアのお正月に当たる
ソンクラーン。またの名を水掛け祭りと呼ばれる祝日。
ソンクラーンはタイが有名ですが
ここカンボジアでも水鉄砲とベビーパウダーを手に
待ち構えているわけです。

バンテアイ・チュマールは小さな村の中に立っています。
案内看板もなく観光資源に利用されているようにも見えません。
バンテアイ＝砦、チュマール＝猫を意味し
遺跡の入り口にある経堂が猫の容姿に似ていることから
「猫の砦」と呼ばれているそうです。

ならば猫ひろしはチュマールひろしと呼ばれているのか。

 

 

寺院内は想像以上に損傷が激しく
がれ場をよじ上って進みます。
健脚な若い人でも気をつけて歩かないと
つるつるした石で滑って怪我をしそうです。
おまけに大型の赤アリがあちらこちらで
行進しているので注意が必要です。
咬まれたらけっこうイタいし。
でも地元の子供達は鬼ごっこのような遊びに夢中。
子供時代に神社の境内で遊んだことを思い出させます。

さらに進んで行くと狭い門の下で
パウダーを持って待ち構えている子供達に遭遇。
パウダー攻撃から逃れることはできず
真っ白に塗られた顔のまま見学続行。
さらにこのパウダーにはメンソール成分が含まれていて
目がスースーするったら。

 

バンテアイ・チュマール遺跡は
バイヨンと並行して増改築をされた寺院。
バイヨンにも見られる尊顔付きの建物はジャヤヴァルマン7世に
よって建てられた寺院の特徴でもあります。
２つの寺院を見比べるとその顔は似ているようで違います。
バイヨンのように完成度は高くないけれど
静かに見守っているような雰囲気があります。

 

 

遺跡西側に出ると回廊に千手観音のレリーフが彫られています。
日本で見られる千手観音よりもかなり男っぽい。
バンテアイ・チュマールは８世紀末に建てられましたが
ジャヤヴァルマン７世時代の13世紀初めに
勢力を増してきたシャム族の侵入を防ぐ
西の砦として補強したといわれています。
当時、この地域には１５～２０万人の人が暮らす
大都市があったと考えられています。

 

 

 

 

バンテアイ・チュマールは、ジャヤヴァルマン７世が
チャンパとの戦いで戦死した息子の菩提を弔うための
仏教寺院として建立されました。
壁のレリーフには息子の勇姿も描かれています。
タイトルはどうやら「怪獣と果敢に戦う息子」。
チャンパ軍の武将を怪獣に見立てて描かれています。
突飛な構図は江戸時代の絵師の伊藤若冲を思い出させます。

普段はひっそりとしているそうですが
お正月は寺院に集まってみんなで飯を食べるそうです。
私たちにとってはクメールの重要な遺跡ですが
地元にとっては生まれたときから存在する村のお寺なのです

寺院の外は露店が並び大賑わい。
で、今どき風の男子軍団を発見。
チェックの服と頭の巻きものが流行なのか？
興味本位で彼らに付いて行くと・・

 

 

大音量でクラブ・ミュージックが流れる
フェンスに囲まれたカラフルなビニール屋根付きの特設小屋に
若者たちが次々と吸い込まれ超満員。
そう、ここは境内の特設クラブ。
入場料20円ほど払うと、用心棒がフェンスを開けてくれます。

みんなちょっぴり恥ずかしげに踊っていたのがいいです。
で、女子はマスクが流行でしょうか？