かつて仏教が現在のインドに位置する天竺から
中国に伝播したルートの途中ある
ウズベキスタン南部に位置するテルメズ。
ガイドブックにすら紹介されることのないテルメズは
紀元前からシルクロードの要所として栄え
クシャーナ朝時代の1~3世紀にはカニシカ王によって
仏教が手厚く保護され最盛期を迎えました。
今も多くの仏教遺跡が残り
優れた美意識と深い思想を表現する
ガンダーラ芸術が発掘されています。
首都タシケントから国内線で約2時間。
テルメズ空港への着陸準備の放送が機内に流れた頃
今までの澄み切った青空から
突然視界ほぼ0メートルの砂が舞う空に一転。
飛行機は何とか引き返すことなく
テルメズの空港に降り立つことはでき一安心。
これは現地で「アフガン風」と呼ばれる
アフガニスタンから吹いてくる土埃混じりの強風で
特に夏場はこの風が吹くことが多いそうです。
テルメズ一帯は空中に巻き上がられた土埃によって
太陽光が遮られ気温が50度になる日も少なくない
この地にしては気温が40度ほど。
湿度が低い分、日本の猛暑よりも快適に感じられます。
砂嵐がおさまったところでハキーム霊廟へ。
ここは霊廟に加えてモスクと10世紀頃にしようされていた
地下の修行場が残されています。
建物左手にある階段を下りた地下壕は
狭くて暗く湿っていてここで修行するには
かなりの精神力が必要とされたことでしょう。
建物の後ろはアフガニスタンとの国境になります。
国境線は軍警察により厳重に警備されていて撮影は厳禁。
地上に戻ると可愛らしい姉妹が
にっこりと出迎えてくれました。
ウズベキスタンの人はカメラを向けると
素敵な笑顔で答えてくれます。
礼拝堂内は質素ですが精神を満たす威厳を放っています。
訪れる人はそれぞれコーランを持参し心の中で読んだり
あるいはグループの代表が声をあげて一節を読んでいました。
静かな室内に美しい声が響きとても神秘的な時間でした。
テルメズ西部に残る「カラ・テパ」は
初期仏教を知る広大な遺跡。2~3世紀頃に
建てられた寺院と自然の洞窟寺院との複合寺院で
天竺からやって来た人々が最初に寺院を建てた場所
だと言われています。
遺跡は軍事施設の中にあるため
見学には事前に申請が必要となります。
タシケントに数多くある現地旅行会社のツアーに
参加するといいでしょう。
当時の内部は、黄土と粘土の化粧漆喰の壁に
仏教のフレスコ画が施されていました。
紀元3世紀頃に栄えたカニシカ王で知られる
クシャン時代のもの。この仏教遺跡はいくつもありますが
その中でもカラ・テパは最大で「仏像崇拝」が始まった地
だとも考えられています。
ギリシャ方面からやってきた
ヘレニズム文化と仏教がここで出会い
偶像崇拝が生まれたといわれています。
こういった仏教の変遷の過程から言っても
とても重要な地域でありました。
その後、中央アジアから中国西部の新疆
そして長安を経由し日本までに伝えられた
仏教文化の変遷の歴史と
その流れの一端をここも担っていたのです。
テルメズ南部を流れるアムダリア川の向こうは
アフガニスタン。東にはタジギスタン
西はトルクメニスタンと接しています。
この地の利は紀元前より
多くの民族と文化が交差しました。
玄奘三蔵も「大唐西域記」にて
「伽藍十余ヶ所、僧徒千余人」と当時のテルメズについて
仏教都市であったことを綴っています。
テルメズには「テパ」と呼ばれる当時の僧院が
長い歴史の中で忘れ去られ
吹きつける砂に覆われ近年ようやく発掘された
仏教遺跡があります。そのひとつが「ファヤズ・テパ」。
ガンダーラ美術の傑作といわれる
「三尊仏」が見つかった場所です。
またアレキサンダー大王やカニシカ王のフレスコ画
そして仏画なども見つかり
テルメズにおける歴史の重要さがここでもうかがえます。
太陽が地平線に沈む直前
シルエットとなったファヤズ・テパを歩く人の姿が
まるで西遊記の一場面のようでした。
市内の考古学博物館では周辺で発掘された
仏教遺跡が展示されています。
当時の城壁、住居など、古代の生活や
建築を見ることができ大変興味深いです。
遺跡群を見学した跡に立ち寄れば
さらに理解が深まることでしょう。