スペイン東北部、フランスと国境を接するバスク自治州。
独立心旺盛で勤勉な性格が信条のこの地方の人々は
古より独自の言語と文化を誇ってきた
スペインであってスペインでない地方。
なかでも世界一の美食の街と噂されるサン・セバスチャンは
一時期の衰退から「美食」で復活を遂げました。
近年、世界のレストラン業界に台頭するスペイン料理。
そのスペインで最も美食が集約されていると言われるのが
バスク自治州。その中でも世田谷区ほどの面積の
サン・セバスチャンにはなんと
7つのミシュランスター・レストランが存在します。
19世紀にスペイン王フェルナンド7世の王妃
マリア・クリスティーナが保養地として以来
王侯貴族が集まる避暑地となったサン・セバスチャン。
目の前は大西洋、東はピレネー山脈という
海と山の自然に挟まれた食材に恵まれた環境で
多くの貴族の舌を満たしてきました。
しかし、年間の4割強が雨天となる天候は
スペインの中で最も降雨量の多い土地。
高級避暑地といえども観光には好ましくない気候です。
それならば、と天気で左右されない
「美食」で町おこしを考案。
この地域では、古くから男が料理をする習慣があり
気の合う男たちが食材を持ち寄り
持ち回りで料理を作り語らう「美食クラブ」なる団体が
100以上も存在すると言われています。
食にうるさい男たちが大勢いるとなれば
飲食店も手を抜けません。
さらにレストランの料理人たちは
互いの技術を教え合い料理法を共有し
街全体のレストランレベルを向上させることに努めました。
これがサン・セバスチャンの知的財産となり
美食という他の地域にはない観光素材を
作り上げることに繋がったのです。
それはレストランに限らず
1,300軒以上あるバル(立ち飲み屋)へと波及し
ピンチョスと呼ばれるつまみで
気軽にそのレベルの高さを実感ができるのです。
ピンチョスとは、もともと「串」を意味し
片手にワイングラス、もう一方の手を汚さずに食べられる
串に刺さったつまみでした。しかし今では
串の他にもバゲッドに料理をのせた軽食風のピンチョス
さらにはピンチョスの定義から逸脱した
ナイフとフォークで頂く「ミニチュア風」と呼ばれる
小皿に美しく盛られたリゾットやフォアグラのピンチョスまで
可能性は広がり続けています。
写真は2012年にピンチョス・コンテストで銀賞を獲得した
casa vergaraの「牛ほほ肉のピンチョ」。
ピンチョスとともに親しまれているのが
バスク名産のチャコリと呼ばれる微発泡ワイン。
その多くが白ワインで
軽い口当たりにわずかな酸味と発泡性が特徴。
チャコリはグラスに注ぐ際の流儀があります。
ボトルを頭上高く持ち上げて、傾けたタンブラーグラスに
ワインをぶつけるように細く注ぎ込みます。
これは酸素を含ませ香りを味わうためだそうです。
注文を受ける度に行われる
パフォーパンスを見ているだけでも楽しめます。
チャコリは地もの魚介はもちろん
どのピンチョスとも相性ぴったり。
2軒目からは口が勝手に「チャコリ」
と言ってしまう魔法のワインなのです。